器とたべもの

食べ物や器のことをとりとめなく書いていきたいです。時々木の器を作ってます。

奈良茶碗と茶粥と茶飯の関係


こんにちはコタツです。
先日、耐震工事の為に閉館していた奈良県立民俗博物館がリニューアルオープンしたので行って来ました。
そこに、奈良茶碗と呼ばれる物が展示されてあり気になったので、奈良の郷土食である茶粥、そして奈良ではあまり聞かない茶飯(ちゃめし)と合わせていろいろ調べてみました。

奈良茶碗の存在は今まで知りませんでした。このブログを始めてから食や器の文化を調べていると、知らない事が多く出てきて自分の無知さを痛感します。しかし、新しい発見がまだまだあると思うと楽しみでもあります。

茶粥は奈良の名物としてよく聞くのですが、茶飯と言う食べ物があると知り、早速食べに行きました。

奈良公園の奥、若草山の近くにある「茶亭ゆうすい」で茶飯とにゅうめんのセットを頂きました。


茶飯は米と大豆をほうじ茶で炊いたご飯です。口に入れるとほうじ茶の風味が広がります。大豆もお茶のエキスを吸って香ばしく感じました。茶粥と同じように塩味などの味付けは無く漬物やおかずと一緒に食べるとおいしいです。

茶粥は、奈良だけでなく近畿地方をはじめ西日本、九州などの地域でも食べられていたようです。茶粥と言えば奈良と言われるようになったのか発祥は、はっきりとわかっていないようですが、ある説には、奈良時代東大寺の大仏建立の時に茶粥を食べて米の食い伸ばし、つまり節米することにより庶民も聖武天皇の大仏建立に協力したとあるそうです。しかし、この説は信憑性が定かでは無いようで、実際は江戸時代初期に倹約家の奈良町民が奈良高畑(たかばたけ)の神職に習った所から始まったそうです。
また、東大寺の修二会(しゅにえ)でも修行僧が茶粥を食べているそうですが、炊き上がったら茶粥の米を半分ほどザルで掬い取りお櫃に入れておきます。この部分を「あげ茶」の略で、「ゲチャ」と呼び、残りの米の少ない部分を「ゴボ」と呼ぶそうです。食べる時にゲチャの上にゴボをかけて食べるそうです。若い僧侶はゲチャだけ食べたり、年配の僧侶はゴボ多めなど米と水分を調整していたようです。この茶粥のゲチャの部分が東大寺の僧房で作られていた茶飯として、後に江戸で広まっていくのではないかと考えられています。

さて、奈良茶飯ですが始まりは江戸時代1657年の明暦の大火の後だそうです。
江戸の地に幕府ができて急速に人口が増え町が大きくなっていきました。江戸の町は度々火事が起こっていましたが、明暦の大火は江戸城を焼失し江戸の町を3分の2も焼き尽くす大変な災害でした。
その火事の後、浅草の金龍山の門前の茶店に奈良茶飯と豆腐汁、煮物などのおかずの定食を出す店が現れました。
それまで、前日から予約して食べに行く高級な料理屋はあったようですが、当日注文して手頃な価格で食べられる奈良茶飯の店は庶民の間で大人気となり、瞬く間に江戸の町で流行し、奈良茶飯のお店や屋台は増えていきました。復興のために江戸にやってきた土木作業を行う人達にも人気だったのではないでしょうか?
奈良茶飯は日本の外食産業のはじまりと言えると思います。
やがて、奈良茶飯の流行は江戸から宿場町を経て逆輸入され関西でも流行したようです。
奈良茶飯の流行に伴い茶飯や茶粥を入れる蓋付きの飯茶碗「奈良茶碗」が登場します。奈良と名前が付いていますが作られていたのは奈良では無く始めは九州の有田、後に美濃などで作られます。

奈良茶碗を集めた図録

形の定義はないようですが、高台が広くどっしりした形が多いようです。奈良茶飯は舟や屋台でも売られていたようなので、安定感があるように高台が広く作られていたのかなと思います。
陶磁器でご飯を食べるようになったのは江戸時代に入ってからで、それまでは漆器や木器を使っていました。最初は位の高い人達が使っていましたが、やがて庶民に広がっていきました。その間に発生した外食産業が発展すると共に奈良茶碗が生まれてたくさん流通するようになったと考えられます。

私も奈良茶碗が欲しくなり、奈良茶碗を探して古道具屋さんやリサイクルショップを何軒か見てまわったのですが、はっきり奈良茶碗とわかる物には出会えませんでした。蓋付きの小さ目の飯茶碗を手に入れました。

どこかで読んだ記事で奈良茶碗の蓋は漬物などを乗せるるため皿として使われたので蓋を裏向けると親茶碗と柄が揃うと書いてたように思うので、これは私の中で奈良茶碗と言う事にしますっ!(強引!)

早速この奈良茶碗で茶粥を食べてみました。
今までちゃんとした茶粥を食べた事が無いので正解はわかりませんが、スーパーに行くと茶粥用のお茶パックが売っていました。

そして、茶粥を掬うのは大塔の栗杓子です。鍋小さすぎて大きさ合ってないけど…。

本やネットで調べてみると、奈良は地域にもよりますが、水分多めで強火で一気に炊き上げサラサラしたお粥が好まれるようです。

蓋に漬物を盛り付け茶粥を食べてみました。

ほうじ茶の香りが口いっぱいに広がり、とてもおいしいです。

昔の人は茶粥に米をいっぱい入れる事はできず餅や芋、栗、保存していたかき餅など入れて食べていたようです。

また、江戸では奈良茶漬と言う二番煎じの奈良茶で炊いた茶飯に初煎の濃いお茶をかけてお茶の風味を楽しむ食べ方もあったようです。
自分で茶粥を作ってみて、思ったよりお茶の風味が強く印象に残る食べ物だなと感じました。

こうして、奈良の人達が知らない所で奈良茶飯が流行り、奈良茶碗と呼ばれる器まで奈良が知らない所で量産されているのはとても面白いなと思いました。
最初にお店を作り奈良茶飯を看板商品にしてくれた人ありがとう!

〈参考文献〉

茶粥・茶飯・奈良茶碗 全国に伝播した「奈良茶」の秘密
著者:鹿谷勲
発行者:納谷嘉人
発行所:株式会社淡交社

奈良茶碗
発行:楠田三郎
収蔵:豊田市民芸館
製作:株式会社光琳社・京都

日本の食生活全集29 奈良の食事
著者:藤本幸平 他編
出版:農山漁村文化協会(農文協)