こんにちは、コタツです。
前回の記事の投稿から時間が開いてしまいました。
今年は頑張って投稿頻度を上げようと思っていたのにこのペースだと去年より少なくなりそうな予感がします。(T . T)
まあ、木地の仕事があったりバタバタしてるのもあるのですが、やはり一番の理由は書きたいテーマが決まっていても頭の中がとっ散らかって考えがまとまらない事が原因で、パソコンに向かって書こうとしても、行き詰まるとついついYouTubeのおもしろ動画なんか見てしまってゲラゲラ笑っていると、なぜかあっと言う間に時間が過ぎてしまいます。
言い訳はこれくらいにして、先日奈良県吉野郡下市町(しもいちちょう)の三宝を作っている工場を見学させていただきました。
その事を記事に書く前に、今回は三宝作りの元となる木材加工技術の曲物(まげもの)について話をしたいと思います。
曲げ物の歴史は古く、青森県八戸市(はちのへし)の是川遺跡(これかわいせき)から、縄文時代にケヤキの樹皮に赤い漆を塗った曲げ物容器と考えられる出土品や、鳥取県の青谷上寺地遺跡(あおやかみじちいせき)からは、弥生時代の曲げ物容器が出土しています。
youtu.be
青森県八戸市にある是川縄文館(これかわじょうもんかん)のYouTube動画です。
2分50秒くらいの所でケヤキの漆塗り出土品が登場します。
曲げ物は、木を割って板にして曲げ、桜などの樹皮を薄くしたひもで綴じて円形や楕円の形を作ります。
そこに、板をはめて容器にしたり竹を編んだ物を取り付け蒸し器にしたり、井戸の枠として使われるなどしました。
木のかたまりをノミで彫って器を作る刳りものや轆轤(ろくろ)製品と比べても、材料の無駄が少なく大きな容器を作ることができるため、古代から様々な用途で使われていたと考えられています。
奈良県の平城宮跡(へいじょうきゅうせき)から発掘された奈良時代の曲物容器。
また、平安時代末期に描かれた信貴山縁起絵巻(しぎさんえんぎえまき)にも曲物を使用している人々の日常生活の場面が描かれています。
赤丸で囲ったところが曲物です。
この絵巻物には、庶民の生活風景に曲物が度々登場します。
この事から、平安時代には庶民の間で、日常的に曲物が使われていたと考えられます。
現在も、まげわっぱで有名な秋田県をはじめ、福岡県の博多曲物、静岡県の井川めんぱ、など全国で何か所で曲物が産地として制作されています。
私の住む奈良県でも、現在も曲物容器が作られていますが昔に比べるとかなり少なくなっています。
奈良県天川村洞川温泉(どろがわおんせん)では、柄杓(ひしゃく)などの曲げ物作りが盛んに行われていました。
洞川温泉にある天川村立資料館で曲げ物について展示されていました。
主に作られていた柄杓と柄杓作りの道具が展示されていました。
柄杓は、シャコ、カイゲなど大きさによって呼び方が違うようです。
鮎寿司の容器としても使われていました。
寿司と言っても現在の酢飯を使った寿司ではなくて、米と鮎を漬けて乳酸発酵させて保存する滋賀県名物の鮒ずしタイプの寿司です。
洞川温泉の弁当箱は漆を塗らない木地のまま使う物が多かったようです。曲げた木を綴じる部分も漆が乗りにくい綴じ方になっているそうです。
それに対し、十津川や三重県の尾鷲(おわせ)で作られた物には漆が塗られています。
理由はわかりませんが、私の推測では洞川温泉の曲物作りは主力製品が漆を塗らない柄杓であったことからその流れで弁当箱が作られていたためかなと思います。
外側を春慶(しゅんけい)塗りと言う透明感のある漆を塗って仕上げた弁当箱。
続いて奈良県十津川村(とつかわむら)でも、山仕事に行く人のご飯を入れる容器に曲げ物が使われていました。
道の駅十津川郷の地下にある「むかし館」に昔使われていた民具などが展示されています。
十津川村の大野地区で作られていたことから「大野めっぱ」と呼ばれていました。
また、小さい方の容器は「サイコ」と言います。
さらに小さい曲物容器を「ツルベ」と呼び味噌を入れて山に持って行きました。
山では、めっぱのフタに谷川の水を汲み、味噌とその辺に生えている野草を摘んで入れた後、焚き火で焼いた石を入れると瞬く間に水が沸騰して熱い味噌汁が出来上がります。
この「石汁(いしじる)」と呼ばれる調理法は、奈良県だけでなく全国で行われていたようです。
このように長い間広く使われていた曲物容器もその後作られるようになった樽(たる)や板を組み合わせて箱を作る指物(さしもの)によって少しづつ活躍の幅が狭まっていました。
しかし決定的な出来事は金属やプラスチック製品の普及が曲物だけに限らず、その他木製品や、わら製品など身近な自然から得られる素材を私達の日常から遠ざけてしまった要因になったと思います。
新しい素材の出現によって、曲物は私たちが日常的に利用するスーパーやホームセンターなどであまり目にすることがありません。
かつては日本の木材利用の中心的存在だった曲物文化が、どのような形でもこの先も消えることなく続いて欲しいと思いました。
※今回掲載した資料館などの写真は撮影可の施設や許可をいただいて撮影掲載しています。
〈参考にさせていただいた本〉
木を育て山に生きる -吉野・山林利用の民俗誌-
発行:奈良県立民俗博物館
ものと人間の文化史75
曲物(まげもの)
著者:岩井広實
発行:財団法人法政大学出版社
吉野の民俗誌
著者:林宏
発行:文化出版局