器とたべもの

食べ物や器のことをとりとめなく書いていきたいです。時々木の器を作ってます。

漆(うるし)の話

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こんにちはコタツです。

なんだかんだであっという間に12月になりました。

今年は私にとって石川県から生まれ故郷の奈良県に引っ越すなど変化の多い一年でした。さらに新型コロナウイルスの流行で計画していたことが色々できなくなったりして本当に思い通りに行かない一年でした。しかし、そのおかげで自分の生活を見つめなおす良いきっかけになり自分でもあまり興味がなかった分野にも挑戦しようという気持ちが芽生えたり、ダメもとでもチャレンジしてみようと言う気持ちも出てきました。制限の多い生活の中でも出来る範囲でやりたかった事を一つ一つこなしていくと、自分の中に力が湧いてきてまたやりたい事があふれ出し、それなりに楽しい一年が送れました。新型コロナで大変な思いをされている方もいるので一日も早く終息して欲しいですが、無意識にパターン化していた生活や思考を変えるきっかけになったと思います。これからも、転んでもタダでは起きぬ精神で頑張っていきたいです。

 

さて、前置きが長くなりましたが先日ふき漆の記事を書いたので、今回は漆の話をしたいと思います。

漆はウルシ科の木の樹液でウルシ科の木は東アジアから東南アジアにかけて分布し、日本をはじめ中国、韓国、タイ、ベトナム、ミャンマーなどで漆工芸の文化があります。

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長野の雑貨屋で買った漆器です。あまり覚えていないけど、お店の人はベトナム製と言っていたように思います。竹と馬の尻尾を編んで作られていてペラペラでめちゃくちゃ軽いです。繊細すぎてまだ一度も使ったことがありません。

後日、調べたらミャンマーに馬毛胎漆器というのがあるそうです。持てば簡単にたわんでフニャフニャな所が逆に軽くて丈夫なんだそうです。

 また、漆を使う歴史は古く、縄文時代の遺跡から漆を塗った装飾品や器が発掘されています。日本で発掘された中で一番古い漆製品は北海道函館市にある垣ノ島遺跡(かきのしまいせき)から出土した装飾品などで約9000年前(縄文時代早期前半)の物と考えられています。

そして、下の画像が福井県鳥浜貝塚(とりはまかいづか)の縄文時代の集落遺跡から発掘された「赤色漆塗り櫛(くし)」です。

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鳥浜貝塚 赤色漆塗り櫛   
(画像協力:福井県立若狭歴史博物館 )

この櫛は約6,000年前(縄文時代前期)のものだと考えられていますが美しい赤色が保たれています。ヤブツバキの木に3層の漆が塗られていて、この頃から漆を扱う高度な知識と技術があったと思われます。

赤色の話を始めると長くなりそうなので簡単に説明すると、縄文時代に赤色を出すために使われた顔料は、鉄バクテリアを由来とするパイプ状ベンガラ、鉱物由来のベンガラ、水銀朱(辰砂しんしゃ)があるそうです。

 

下は以前縄文時代の漆かきを体験した時の画像です。

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黒曜石(こくようせき)を使ってウルシの木を傷つけ漆を採ります。

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黒曜石はガラスの破片のようで注意して触らないとすぐに手が切れます。

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考古学者の先生が黒曜石を使った漆かきの方法を実演されています。

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赤い矢印の所が黒曜石で傷をつけた所で、そこから乳白色の漆がでてきています。この樹液を掻き集めて使います。漆は空気に触れるとだんだん色が濃くなってきます。

現在の漆かきの動画がこちらです。

 

縄文時代に比べ道具は良いものができたので、採取量は増えていると思われますが、現在も人の手で一滴づつ採取されています。

ただ、現在使われている漆は90%以上中国から輸入されていて日本産の漆は貴重で高価です。

 

漆文化はずっと続いていて明日香時代の工房跡からも漆塗りの道具が発掘されています。

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写真撮影OKとのことだったので撮影させていただきました。

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刷毛(はけ)。

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ヘラ。

使われていた道具類も現在の物とよく似ています。

現在はスプレーのように漆を塗る方法もありますが、職人さんが一つづつ刷毛で塗っていたりと漆文化はは長い歴史の中でほとんど変化せずに続いて来たのだなと思います。

今は急激に時代が変わっていて、ずっと続いて来たものが簡単に消えていってます。私の家には自作の漆器がたくさんありますが、正直に言うと電子レンジに使えないのはとても不便です。毎日の事になるとご飯とか温めるのについつい陶器の茶碗やプラスチックのタッパーを使いがちです。そう考えると漆器は生活必要品ではなくなっていて、この世から消えて行く物ランキングにランクインしている思います。特に最近は物でも服とかでも使い勝手がいいか悪いかが物を選ぶのに重要視されがちなので、そう言う価値観を超えた魅力を出せる物を作っていかないといけないなと思います。流行を追いかけると、永遠に走り続けないといけないので、変わらない覚悟も必要だなと思います。

 

また、漆はどうしても元の樹液の色があるので、どんな木に塗っても茶色っぽい器になってしまいます。

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私も一時それが嫌で、新しく出た透明な塗料に憧れた時期もありました。でも、やっぱり漆は長い間使われて来た実績があり、その中で良い部分や弱点などもわかってるから安心して使えるかなと思います。何より私はいずれは土に還る漆器作りをしたいと考えているので、そう考えるとやっぱり漆かなあと思います。

そして、一度固まれば強固な漆ですが紫外線に弱いという弱点があります。太陽の光はもちろんですが、ライトに当たり続けるのも劣化が早くなります。漆製品を作っている人からすればこの弱点は非常に困りますが、自然界から見ると大切な現象だと思います。でないと、そこらじゅう漆だらけになってしまいますね💦

鳥浜貝塚の漆製品は湿地から発見されていて、水の中で空気や光に当たらなかったので6,000年経ってもきれいな状態を保っていました。

それにしても、かぶれにも負けず最初に漆塗った人すごいと思います。私も一度、全身かぶれて夜も寝られないくらいかゆい思いをしましたが、それからは漆が付いた所だけ少しかぶれる程度です。しかし、研修所時代一緒に学んだNさんは大変漆に弱くて私が半袖で作業してる横で、長袖に長いゴム手袋、ビニールのエプロンと言う重装備で作業してましたが、私よりかぶれていました。おまけに野菜ジュースにマンゴーが入っていて、それでもかぶれてました。その時初めてマンゴーがウルシ科である事を知りました。

また、韓国には漆を食べる文化があるそうです。漆鶏鍋が代表的で食べる前にかぶれないように薬を渡されるそうです。

さすがに食いしん坊の私も出されたら食べる勇気は無いかもしれないです。

 

〈参考文献〉

ここまでわかった!縄文人の植物利用

編者 : 工藤雄一郎・国立歴史民俗博物館

発行者:株式会社 新泉社

 

漆・悠久の系譜 -縄文から輪島塗、合鹿椀-

編集・発行:石川県輪島漆芸美術館

 

ここまでわかった!  縄文人の植物利用 (歴博フォーラム)