器とたべもの

食べ物や器のことをとりとめなく書いていきたいです。時々木の器を作ってます。

吉野の割り箸

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あけましておめでとうございます。
皆様、年末年始はいかが過ごされましたか?私は木地仕事の合間に介護施設でアルバイトしていて元旦から介護の仕事に励んでいました。今年は新型コロナの感染予防であまり人手の多い所を出歩く気も起きないのでちょうどよかったかなと思います。

年末年始のドタバタでなかなかブログ更新できませんでしたが、本日は奈良県吉野地方の割り箸の話をしたいと思います。

奈良県吉野地方は室町時代から植林による人口林で杉や檜(ひのき)を育てる林業が盛んでした。木を密集させて植え、成長に合わせて間伐を行い枝を切り落とすことで細かい年輪で外径が真円に近く先細りしない良質な木材を生産していました。
豊臣秀吉の大阪城なども吉野の木材が利用されているそうです。
建築材だけでなく、間伐された木材にもその年数によって利用方法が分けられていました。
中でも醤油や味噌を入れる樽(たる)の生産はとても盛んでした。
明治時代に樽を作る時に出る端材(はざい)を有効利用出来ないかと考えられたのが割り箸です。
最初はただ端材を一本づつナタで割っただけのシンプルなものでしたが、外食産業が盛んになるにつれ塗り箸に比べて麺類が滑りにくいことや使い捨てに出来るので衛生面で好まれ割り箸の需要がグングン伸びていきました。
吉野地方の人たちは競い合って新しい技術や機械を開発し割り箸は現在の姿になりました。

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今でも奈良県下市町は割り箸生産が盛んで割り箸を製造してる会社が多くあります。
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杉箸を祀る神社もあります。
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道路の脇にある割り箸の無人販売所です。前の道路は割と大きくて車がスピードを上げて通り過ぎます。
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箸袋に入ってないものを200円で購入しました。

またある日、下市町の温泉施設の前でイベントが開催されていて割り箸や他の特産品が紹介されていました。
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割り箸をつかんで150gを当てるゲームに挑戦しました。
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この方は150gピタリと当てておられました。
私は残念ながら130gでした(T_T)。
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参加賞に割り箸を頂きました。

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数種類の割り箸と歴史などか書かれたセットがあったので買ってみました。
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普段なんとなく使っている割り箸の形にも名前や由来について書かれていてとても興味深いです。

いろいろ本などで割り箸の事を調べているうちに、以前買った柿の葉寿司の杉板を使って割り箸を作ってみようと思いたちました。
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この箱を使います。柿の葉寿司に使われている杉の板はきれいな木が多いので、普段から器の型を作るため捨てずにとっています。
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底面の紙と横の釘を取り分解します。
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年輪の方向に刃物をあてカナヅチて少しづつ刃物をたたき木を割っていきます。イメージではスパっと割れるはずが力加減が悪いのか何度か失敗しました。
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割った材料を刃物で削って形を整えます。
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だいたいこんなもんかな?
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真ん中を慎重に3分の2位まで割ります。
最後に頭の部分をななめに削って天削(てんそげ)と言う形にして完成です。
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ちょっと釘跡などもあり形がブサイクですが、3種類作ってみました。下から天削箸、利久(りきゅう)箸、初期のナタで割っただけの形です。ちなみに利久箸は千利休(せんのりきゅう)が考えた形だそうですが、そのままの字だと利を休むとなるので商売には向かないので利久となったそうです。

早速使ってみます。
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うまく割れるかなあ。緊張の一瞬です。
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割れたー!きれいに割れました!
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麺もすべらないし、おあげさんもうまくつかめます。麺を口に入れた時に杉の良い香りも口の中に広がりました。うまくできたので食べ終わった後捨てるのがもったいないです。

私は以前から割り箸を貧乏くさく何度も洗って使ったりしていました。そしたら、引っ越しの時使ってない割り箸が大量に出て来て、それ以来割り箸だけに割り切って使い捨てにしています。家で食事する時も麺類などは割り箸で食べるように使い分けています。
ただ、思うのは使い終わった割り箸をゴミとして捨てるのはもったいないなと思います。新聞紙や空き缶みたいに回収してくれる所があればいいなと思っています。他人任せな発想ですが、バイオマス発電みたいなのに使えたらいいなと考えています。

以前マイ箸ブームがあり、資源保護のため外食の時に割り箸を使わないように自分の箸を持ち歩くのが流行った時期がありました。私も当時はマイ箸を買ったりしていました。現在では、間伐材を使った割り箸が見直されてきて割り箸が資源の無駄使いと言う声はあまり聞かれなくなりました。吉野地方でも樽の生産は少なくなりましたが現在でも建築材の端材などで割り箸が作られているそうです。
今回いろいろ調べてみて、吉野地方の割り箸生産は限りある資源を無駄なく使おうという発想から生まれたものである事を知りました。これからのこの考えを大切に普段の生活で割り箸を使って行こうと思います。
もし、吉野に来られる事があればぜひ吉野杉の割り箸を買ってみて下さい。

〈参考文献〉
木を育て、山に生きる 
吉野・山林利用の民俗誌
平成19年度特別展図録

著者  奈良県立民俗博物館編
出版社 奈良県立民俗博物館

割箸が如何にして生まれ育って来たかを知って今後を考えて見ましょう

著者 絹谷禎聡